冬毛のホワイトアーミンの縁どりのローブをまとうエドワード6世
偶然、フェルメールの「手紙を書く女」、「真珠の首飾りの女」の記事を見て、美術用語には「アーミン柄」というのがあるのかと思いました。服飾用語では特にありません。
知人のブログはいまフェルメールを掲載していますが、そこから「手紙を書く女」、「真珠の首飾りの女」へたどりつきました。
フェルメールのリード・タン・イエローのジャケットは、他の作品、そして同時代のオランダの絵画作品に多く登場しています。
さて、このリード・タン・イエローのジャケットの縁どりは「アーミン柄ではない」、というところからはじまります。他の同じ作品を記事にしている方々を拝見すると「アーミン柄の縁どりのジャケット」となっていました。
アーミンの毛皮の縁どりのエドワード6世
結論から申し上げると、服飾の中では「アーミン柄の縁どりのジャケット」とはならないと思いました。
アーミンは「白貂(オコジョ)」のことですが、中世時代から王侯・貴族に寵愛された毛皮です。ところがこの「アーミン」が、古い時代から絵画作品に描かれていることがわかりました。
皆さんが一番わかりやすい時代からさかのぼると、英国のエリザベス1世(Elizabeth I, 1533年-1603年)、エドワード6世(Edward VI, 1537年- 1553年)のあたりはいかがでしょう。
肖像画にはこのアーミンの毛皮の縁どり、または白貂を抱いている絵画作品があります。
エリザベス1世の肖像画に描かれたアーミン
もしも、この作品に描かれている「アーミン」が存在していたなら、フェルメールの「真珠の首飾りの女」の作品にあるジャケットの縁どりに、特別な違和感をもたなかったかもしれません。
イギリスのエドワード三世が正式に王室の毛皮としたのが14世紀のこと。ですからエドワード6世の肖像画にある左上の丸い紋章に描かれているのは、アーミンとその紋様です。
ではエリザベス1世に描かれたアーミンは、画家がアーミンを知らなかったのかというと、たぶん白貂に「アーミン・スポット」を描いたのだと思います。
アーミン・スポットというのは、白貂の尾を表現するパターンのひとつです。白貂は英国王室の象徴で、現在も式典のときにはこのローブが羽織られるようです。
「白貂を抱く貴婦人」(実はフェレット)
この肖像画は実はフェレットですが、白貂によく似ていますね。
レオナルドはミラノ公ルドヴィーコの愛妾チェチーリアを描いたのですが、アーミン勲章を受勲したルドヴィーコを表す私的意匠でもあった白貂も描く必要があったのでしょう。
「フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ 小書斎-神曲 地獄編の子孫」という記事の中で、ミラノ公ルドヴィーコの縁者が、「純潔と貞節」のエンブレムとして装飾に使われている小書斎をごらんいただけます。記事の中ほどに写真があります。
このように英国に限らず、その時代の王侯、権力者や有力貴族である階級を示すものです。
アーミンの縁どりのローブをまとうマリア・テレジア
エドワード6世の肖像画でもわかるように、白貂の尾は黒く、その尾を毛皮につけられます。もっともよくわかるのが、マリア・テレジアの肖像画です。たいていアーミンの縁どりはこのようなつけ方が一般的です。
右はエリザベス女王の戴冠式のローブを羽織った肖像画です。左が「手紙を書く女」のジャケットですが、衣装の専門家は、「手紙を書く女」のジャケットに言及しているのでしょうか。緻密に描くといわれているフェルメールの作品から、画家はアーミンの毛皮を知らなかったのだと思われます。
「手紙を書く女」、「真珠の首飾りの女」の記事、「フェルメールのクローゼット」で書かれているように、アーミンの縁どりではないということになります。「フェルメールのクローゼット」を書かれた方の洞察力はすばらしいですね。
フェルメール 手紙を書く女(部分)
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毛皮をたくさんお持ちなのかとも思いますが、記事にある「ヴェア vair」は、服飾用語ではスクウェレルといいます。
こちらも王侯・貴族に愛された毛皮ですが、リスはおなかの部分が白いのと、斑点は大きいのですが、カットして使用しているとなるとリスに近いと思いました。あとは猫、山猫ですね。
絵画作品のことは詳しくありませんが、アーミンとは思えない縁どりと毛並みです。調べてみるとフェルメールの財産目録には「黄色のサテンに白い毛皮の縁どりがあるマントル」とだけありました。